【第12話】1年間|共犯者から恋人へ、運命の告白

キミと見たライブの景色

次に練習する曲をあきちゃんと一緒に決めて、1曲ずつ確実にマスターしていく。

1ヶ月に1〜2曲のスローペースではあるが、確実に練習して演奏できる曲が増えていった。

月・水・金の塾の授業前の1時間。水曜日の自習室での時間。日曜日はあきちゃんの家に行き、ちえさんからギターを習ったり、練習曲を合わせたりする。

ほとんどが音楽の毎日だったが、あきちゃんと一緒なので非常に充実して楽しい日々だった。

10月には僕の誕生日と、あきちゃんの誕生日。12月にはクリスマス。音楽以外でも一緒に過ごす時間を可能な限り作り、お互いの存在は、何にも負けないくらいかけがえのないものとなっていった。

冬を超えて3月。塾の進学コース継続試験の日時が近くなる。

——僕とあきちゃんが、出会った日だ。

この塾では、入塾試験以外にも毎年試験がある。試験で進級可能かどうかを測るのだ。勉強についてこれない子は、ここで通常コースへ移される。4年生で入塾して、6年生卒業まで残る人数は半分以下なのだ。

1年前のこの日、僕は入塾試験を、あきちゃんは継続試験を受けていた。

最初の印象は最悪だった。ぶつかって、舌打ちされて、CDを盗んで——それなのに、気がつけば魅了されて、大好きになっていた。

この1年、かなりの時間を一緒に過ごしたし、様々な話もした。継続試験は例年通り2時間で終わるので、いつもより早く塾が終わる。早く終わるからこそ、この日は終わってからも会う約束をした。

「試験終わったら、なおちゃんの教室に迎えに行くね」

あきちゃんは、そう言っていた。

試験はやはり簡単で、特に苦もなく答えることができた。自信もあったので、結果発表に緊張するまでもない。淡々と帰る支度をしていると、約束通りあきちゃんが迎えに来て、僕たちは塾を出た。

この日は2階のいつものベンチではなく、エレベーターで1階まで降りた。駅の近くの公園に行き、話しながら歩いた。

「今日で出会って、1年だね」

あきちゃんはキラキラした笑顔で僕に言う。

「この1年、すっごく楽しかった。あきは同級生とかと話してても、全然楽しくなくてさ。みんなレベル低いから、合わせて話すの大変なんだよね」

少しだけ、寂しそうな表情を見せる。

「なおちゃんも、学校の友達に同じようなこと感じてない? 本気で話せるの、なおちゃんが初めてだし、さらに音楽の趣味も合う。一緒に目標にしてるところも同じで、本当に楽しい1年だった」

僕も同じように思うし、同じように1年間感じてきた。同年代の友達とは全く話が合わなかった。あきちゃんが、本当に心の底から楽しみながら話せる初めての人だったのだ。

最初は、絶対に関わりたくないって思った。でも話すと、すごく魅力的で、どんどんあきちゃんの世界に吸い込まれていった。

音楽の趣味が合い、全力で話してもついて来てくれる。僕の知らないこともたくさん知っていて、僕の強すぎる知的好奇心を満足させてくれる。

めちゃくちゃ頭が良くて、記憶力が人並外れている。ニヤリと笑う笑顔が可愛くて、小柄で細い身体に収まりきれない溢れる元気良さ。尊敬する部分や憧れてしまう部分をたくさん持っている。

そんなあきちゃんのことが大好でたまらなくなった、1年間だった。

夏にはあきちゃんの家に遊びに行くようになり、ギターと出会った。ちえさんにギターを教えてもらうために毎週通うようになった。ギターを覚えていき、一緒にバンドを始めた。将来はメンバーを揃えてライブをしようと誓い合った。夢を共有する仲間にもなったのだ。

あきちゃんのボーカルの才能は、飛び抜けている。僕は、その歌声に魅了された一人なのだ。このボーカルに見合うギタリストになるために、僕は全力で努力をしている。あきちゃんとなら、何でもできてしまう自信が湧いてくる。

負けず嫌いの僕なのに、あきちゃんには全然何しても勝てない。でもその「勝てないこと」が、苦痛でもなく心地良い。

あきちゃんが一つ年上だからかな? 僕よりも飛び抜けた天才だからなのかな? それとも、大好きなかけがえのない存在だからなのかな?

小学4年生の僕には、その答えは出せなかった。でも——とにかく大好きで、絶対的な存在のあきちゃんと急激に仲良くなれた、素敵な1年間だったのだ。

僕があきちゃんのことを大好きなのは、もうバレバレである。ちえさんとなっちゃんの悪魔的なイジりにより、もう知れ渡っているのだ。

でも——あきちゃんにとって僕は、どんな存在なのだろう?

この答えを考えることは、非常に多かった。夢を追う仲間としての存在なのはよく理解しているのだが、人として、男としてどうなのか。

まだそんなことを考えるような年齢ではないのだけど、気になるものは仕方がない。その気持ちを知ったからと言って、その後にどう関係を変えていくのかも分からない。お互いが好き同士でいても、その先どうなるものなのかが分かる年齢ではないのだ。

そんなあきちゃんが突然、キッと真剣な表情になった。

「大切な話をするね」

急に雰囲気が変わり、僕は一気に緊張しながら頷いた。

「この1年間、なおちゃんとたくさん話したし、楽しかった。将来どうなるのかは分からないけど、今は一緒にバンドをしたい、ライブをしたいんだって、同じ夢を描いてるよね。周りの大人も肯定的で協力的だし」

あきちゃんは、ゆっくりと言葉を選びながら話す。

「もちろん、その夢は叶えたいし、なおちゃんとならそれも可能だと思ってる。そんな夢を一緒に追う相手だからこそ、言うべきではないのかも知れないけど——あきは、もう抑えられないから正直に言うね」

あきちゃんは、真っ直ぐ僕の目を見た。

「なおちゃん。キミのこと、好き。大好き」

心臓が、バクバクと音を立てた。

「初めての感情だから、比べられる経験もないし、基準もよく分からない部分があるけど——あきは、なおちゃんの彼女になりたいと思ってるの」

「彼氏や彼女って言葉だけ聞くと、終わりが訪れる可能性を考えちゃうから不安だった。でも、なおちゃんとなら終わりなんて無い気がするの」

あきちゃんは、少しだけ笑った。

「嫌なことがあっても、お互いに向き合って話し合って、しっかり解決できる。信頼関係が築いていける相手だと思ってるから——言う決心がついたの」

そして——

ニヤリと、あの笑顔を浮かべた。

勝利までの道筋を確信している、あの自信に満ちた笑顔。

「なおちゃんは今日から、あきの彼氏になりなよ!!」

何とも、あきちゃんらしい告白である。

僕は、涙が溢れ出てくるほど嬉しかった。必死に涙を流さないようにウルウルとした瞳を擦り、コクコクと頷き、何とか必死に声を絞り出しながら——

「……お願いします」

と答えた。

周りで僕たちを見ている人たちや塾の生徒たちから見たら、もうすでに恋人同士だったかもしれない。親密すぎた僕たちは、今までと何も変わらないのかもしれない。

だけど、本人たちにとっては、この「形式の変化」は非常に大きなことだった。

僕は、やっと念願の——「あきちゃんの彼氏」になれたのだ。

1993年3月。出会いから1年。

僕たちは、「共犯者」から「恋人」になった。

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