第8話「クセが強い家族・後編」
「ママー。コンビニ行ったら、もうなおちゃんがいたー。早過ぎー。笑」
いきなり大声で、僕が1時間30分も早く来たことを報告された。
すげぇ恥ずかしい。
奥にあるリビングのドアが開き、女性が一人こっちに向かって来る。20代前半あたりだろうか? あきちゃんに歳の離れたお姉さんでもいるのかな? お母さんにしては若すぎるのだ。
「初めまして。おはようございます」
挨拶はキッチリとする。良い子の鏡だ。
誰なんだろう、この人。妹がいるのは聞いていたが、お姉さんは聞いてない。
「おはよー。キミが噂のなおちゃんかー。いらっしゃーい」
ものすごく軽いノリで挨拶してくれるから、すごく気が楽だ。それにしても「噂の」ってなんなんだよ。日頃、どんな噂をしてるんだ?
「あきがキミのことばかり話すから、ウチの家族ではキミは有名人なんだよ」
いきなり最大級のダメージを受けた。回復魔法を使ってもらわないと、今日1日を乗り越えられなさそうだ。
すげぇ恥ずかしい。
「ママ、もういいからっ!!」
僕の手を引っ張って、奥のリビングへ行こうとするあきちゃん。
「えっ?? お母さんなの? えっ?」
若すぎる見た目に、軽いノリ。信じられない。
「キミには、この人があきの妹に見えるの?? 笑」
あきちゃんは笑いながら聞いてくる。妹がいるとは確かに聞いているが、他に姉妹がいることは聞いていないからね。
「うん。なおちゃん、キミの反応は合格だわ。少なくても”おばさん”とか呼んでたら追い返して、あきと会うことは今後禁止にしてたかもねっ。笑」
笑顔でサラッとイジられる。さすが親子だ。
みんなでリビングへ移動する。あきちゃんは、コンビニで買ってきた飲み物をコップに注ぎ、食パンをトーストし始める。
「キミが早く来すぎただけで、あきはまだ朝ごはんを食べてないんだよ」
ニヤリとしながらこっちを見てるあきちゃん。やはり可愛い。
あきちゃんが食事の間は、ソファーに呼ばれて母親尋問を受けることになる。早く食べ終わってくれ……。
「あたしは”ちえ”。ちーちゃんって呼んでいいよ」
さすがに、好きな子の親を「ちゃん呼び」するわけにはいかない。必死でその呼び方だけは却下するが、「おばさん」や「お母さん」だともう2度とこの家には入れないと脅してくる。
10000歩くらい譲歩してもらい、「ちえさん」と呼ぶことで話はついた。
とにかくこの人は、あきちゃんがそのまま大人になったような、ワガママで自由奔放で、自分の意見をハッキリと持っているような人だった。
最後に、あきちゃんに聞こえないように小声で僕に囁く。
「で、あきのこと、好きなの?」
5秒くらい固まってしまったが、素直にならないと後に後悔するのは嫌なので、小さく小さく、そしてゆっくりと頷いた。
「あははははぁ〜、そうか〜。やっぱりね〜」
僕をバシバシ叩きながら大笑いするちえさん。
すげぇ恥ずかしい。
「なんの話してんの〜?」
あきちゃんが会話に混ざりたがる。
「あきちゃんは可愛いね〜って話だよ〜」
笑いながら、ちえさんはあきちゃんを煽る。
あきちゃんに内容を悟られないかヒヤヒヤしながら誤魔化していると、リビングの入り口のドアが開いて、別の人が入ってきた。
「おはよぉー」
次は絶対に間違いない。妹だ!!
眠たい目を見開いて僕を見た後、すごい勢いで向かってくる。
「これがなおちゃん?」
まるで新しいおもちゃを見つけた目だ。キラキラしてる。
「なんでいるの? 10時じゃなかったの? もう10時過ぎてるの?」
返答に困る。すげぇ恥ずかしい。
「あきに早く会いたくて来ちゃったんだって〜。笑」
ちえさんが煽ってくる。すげぇ恥ずかしい。まあ、間違いではないのだが……。
「へぇ〜。あきちゃんのことが大好きなんだねぇ。愛してるってやつ??」
質問内容が鋭すぎる妹。すげぇ恥ずかしい。
キラキラした視線をこっちに向けるあきちゃんとちえさん。妹の悪意のない質問の答えを期待してるのだ。
止めてください……。
「ねぇ、どうなの? 好きじゃないの? 嫌いなら家に来ないよね?」
小学3年生の質問とは思えない鋭さに、僕のハートはボロボロだ。もう回復魔法くらいでは回復しきれない。
「ねぇ、あきちゃんのドコが好きなのってば〜」
満足の答えが返ってくるまで止まらない、悪魔の申し子。恥ずかしすぎてパニック寸前となり、妹にかろうじて聞こえるであろう小声で——
「……全部」
とだけ答えた。
「キャーー。全部好きなんだって〜。照」
大きな声で暴露される。
すげぇ恥ずかしい。

ここまで躊躇なく、初対面の年上男子をイジれるこの子は、間違いなくあきちゃんの妹だと確信した。
僕は訪問後、わずか30分ですっかりイジられキャラと化した。おそらく世界最速記録だろう。ギネスに認定されるかもしれない。
母親は「千恵(ちえ)」。あきちゃんは秋に生まれたから「千秋(ちあき)」。妹は夏に生まれたから「千夏(ちなつ)」。ちなみに呼び名は「なっちゃん」。
ネーミング、適当すぎじゃない?
とか思いながら、このクセの強い家族に驚愕する僕だった。
イジるだけで悪意はなく、歓迎してくれている空気は感じられる。こうして僕は、あきちゃんの家族から受け入れられた。
あきちゃんの食事が終わり、そろそろ部屋に行こうとのことになった。
なっちゃんは、もっと僕をイジりたかったらしく「まだリビングにいろ」としつこいが、聞き入れてしまうと僕はおそらく命が尽きてしまうだろう。あきちゃんの部屋に行く方向で話がまとまった。
「えっちなことするなよ〜」
ちえさんが茶化してくる。
「ママー。女の人が男の人を部屋に入れるときは、えっちなことをするんだよ。この前テレビでやってたじゃん」
なっちゃんは、ドラマから得た謎の知識をかざしてくる。
「しないです!!」
言っても虚しいだけの反論をしたが、あきちゃんは僕を引っ張ってリビングを出る。このままではキリがなく終わらないと悟ったのだろう。
リビングでは「したいくせにねぇ」とか「後でなっちゃんが見に行ってあげるから大丈夫だよ」とか、まだその話題について話してるちえさんとなっちゃんの声が聞こえた。
時計は10時少し前くらいだった。
早くついた1時間30分のほとんどは、リビングの悪魔2人による尋問に費やした。もし仮に10時に約束通り来ていたら、昼前くらいまでこれが続き、そのままお昼ご飯となり抜け出せなかったのだろうか?
早く来て良かったと、心から安堵した。
あきちゃんの部屋に、ついに来た!!
ドアを開けると、驚きで固まってしまう。想像していた女の子の部屋の雰囲気は、どこにもないのだ。
部屋一面に貼られる数々のバンドのポスターやフライヤー。大量に並ぶCDの数々と、その隣に存在感を放つ大型のコンポ。
そして——
一台のギターと、それに繋ぐスピーカー(アンプ)、楽譜スコアがあった。
「ギター、弾けるの?」
僕はエレクトーンやピアノなら習っているから弾けると話していた。だが、あきちゃんが楽器を弾けるとは聞いていない。僕はバンドをするならギターがやりたいと話していたので、すごく興味があった。
「ママが昔やってたの。あきは少しだけ教えてもらったけど、全然弾けないよ。かっこいいから、あきの部屋に置いてるの」
スコアをパラパラっと開いてみたけど、ピアノの楽譜とは全然違って意味が分からない。TAB譜というらしく、全く読めないので、とりあえず何も分からないままギターを手にする。
シャカシャカと音を鳴らしてみるだけで、すごく楽しかった。
これが、僕とエレキギターの運命的な出会いだった。
── 第9話へ続く ──

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